日本舞踊が当たり前にある生活を失い、舞踊家の道へ
私が日本舞踊家を目指したきっかけは母です。子どもの頃から日本舞踊家である母・藤間恵都子に日本舞踊を習い育ちました。母も私と同様、日本舞踊を子どもの頃から習っていました。我が家は祖母、母、私と三代続けて日本舞踊をやっております。祖母は幼少の頃、病弱だっため、体が強くなるようにと日本舞踊を習ったそうです。それから日本舞踊が楽しくなり、人に教えるまでになりました。ですから、私は子どもの頃から踊っている人を見たり、三味線の音を聞いたり、着物や浴衣を着たり、畳のある日本様式の稽古場にいることが当たり前の生活でした。ところが、大学を卒業し就職すると仕事で忙しくなってしまい、ほとんど日本舞踊とは無縁の毎日になってしまいました。そのとき初めて、自分の体のなかに日本舞踊が深く染み込んでいたことを知ったんです。子どもの頃から馴染みのあるものって簡単に失うことが出来ませんよね。ましてや私は幼い頃から母に日本舞踊を叩き込まれていたので、日舞は私にとってかけがえのない存在でした。そのことに気づいてから、「踊りたい。日本舞踊の道へ進みたい」と思い、約2年の会社員生活に終止符を打ち、この藤間流日本舞踊教室で講師を務めながら舞踊家として日々精進する毎日を送っております。
日本舞踊の魅力は、まずは着物、畳、作法…体で日本を感じられること
日本舞踊の魅力というと、まずは体ごと日本の文化のなかに飛び込めることだと思います。いま、畳のお部屋があるおうちも少なくなっているので、日本様式のお稽古場に一歩踏み込んでいつもの日常とは違う空間に入れることだけでもひとつの魅力ではないかなと思います。そこで、着物や浴衣を着て、三味線の音を聞いて、じっと踊りを観察したりご自身でも踊ってみると、日本文化が体のなかにすうっと染み込んでいきます。昔では当たり前だった挨拶や礼儀作法も日本文化の大事な一部ですので、ここでは作法についても丁寧に生徒さんに教えています。ですから、お子さんにはとても役に立つと思います。綺麗な所作やきちんとした挨拶ができると、どこに行っても恥ずかしくないでしょうし自信にもなると思います。
自分じゃない自分になれる
日本舞踊はもともと歌舞伎から生まれた踊りになります。江戸時代に発祥し人から人へ引き継がれてきました。歌舞伎は「歌」と「舞」と「ワザ」というような字のとおり、3つの要素で構成されています。「歌」はセリフや歌などの音楽的な要素、「舞」はダンスや踊りの要素、「ワザ」はチャンバラや宙返りなどのアクロバティックな要素です。いろんなものが含まれたのが歌舞伎であり、そのため総合演劇といわれています。その歌舞伎から踊りだけが独立したのが日本舞踊なのです。ですのでただ踊りといっても、お座敷でしなやかに踊っているだけじゃなく、いろんな豊かなストーリーがあり、役がありその役に合わせた踊り方があります。そこを自分なりに研究するのですね。「男だったらこう胸を張って大きく見せようかな?」「女だったらちょっと優しく体を小さく見せようかしら」っていうふうに研究して踊るのが私は一番面白いなと思います。また、歌舞伎は男性しか舞台に上がれないのですが、日本舞踊は男性も女性もどちらもいて、私が男のかっこいい役をやることもあるし男性が可愛らしい女性をやることもあります。そういうフレキシブルなことも出来るんです。人間以外の役もあって、幽霊の役や猫などの動物や雷の役まであるので、いろんな役を楽しめます。最近だと、中高生くらいの男の子が「素敵な女性の役をやりたい」とお稽古を始めました。老若男女が人間の役もそれ以外の役も出来る、とても幅の広い踊りだなと思います。普段、なかなか自分のことを「私っていい女ね」って思うのは難しいですが、綺麗な女性の役だったら、堂々とそう思って演じられます(笑)また、1人二役を演じる演目もあり、お互い恋敵の役を1人で演じることもあるんですよ。「自分じゃない自分になれる」ことが魅力だと思います。古典の演目とはいえ、どんな役柄でもそれを昔演じた人たちはいまの私たちと同じ人間です。いまの自分が抱く気持ちを、時代を超え同じ役のなかで昔演じた人の気持ちに共感しながら表現出来ることは他のダンスにはない魅力だなと思います。
お稽古は小さな子どもから大人まで。1対1の個人レッスン
日本舞踊の基本的な稽古は、個人レッスンです。他のダンスですと、講師1人にたいし複数の生徒さんということが多いかと思いますが、日本舞踊は1対1で対面で習います。そして鏡を使わず、生徒さんは講師の踊りをそのまま真似をしながら練習します。例えば、私が生徒さんの鏡になって「はい、右手をあげて」と言いながら私は左手をあげるんです。鏡を使わないので、間近にいる講師の細かな動きを生徒さんはじっと観察し身につけていく、これはとても集中力を養うと思います。藤間流ではお稽古の初級編として、手ほどき曲が3曲あります。まずは、それを一つずつ確実に踊れるようにお稽古をします。その3曲が終わると、その生徒さんに合わせて女踊りをやったり、男踊りをやったり稽古を重ねていきます。小さなお子さんですと、手ほどき曲も難しいので童謡を歌いながら体を動かすところから始めます。発表会は大人の方は数年に一度、お子さんは一年に一度行います。どちらも自由参加で、大人の方は大きな劇場、お子さんはお稽古場や岩間市民プラザで踊ります。劇場の発表会の場合は、生徒さんはプロの舞踊家と同じように衣装や化粧、かつらをつけて20分ほど数百人の前で踊ります。生徒さんのお話では、舞台を独り占めして踊る高揚感は病みつきになるそうですよ(笑)
大人のレッスンは日本舞踊家・藤間恵都子が担当。日本舞踊の世界を堪能
私はお子さんのお稽古を担当しておりますが、大人の生徒さんは私の母・藤間恵都子が講師を務めています。母は、舞踊家として国立劇場の舞台にも何度も立ち、NHK『にっぽんの芸能』にも何度も出演しています。私からすると、とても追いつけないのではないかと思うほどのキャリアと腕があり、第一線で活躍してきた舞踊家です。ですので、お客様からどう見えるか、どうしたらもっと華やかに見えるか、ということを本当によく知っていてそれを人に教えられる経験を持っています。豊富な経験で培った技術を学べるのは、当教室の強みかなと思います。色々な舞台の裏話もあるので、お聞きになるのも楽しいと思います。日本舞踊は敷居が高いと思われがちですが、ぜひ気軽にのぞいていただいて日本舞踊の世界を知っていただきたいなと思います。
※上記記事は2022年8月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。