アライ動物病院 荒井 和子 院長 KAZUKO ARAI
日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。動物病院勤務を経て、1985年に『アライ動物病院』を開業。
日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。動物病院勤務を経て、1985年に『アライ動物病院』を開業。
当院は1985年に開院いたしました。ここは、私の実家があったところだったのです。今はすっかり宅地化されていますけれど、当時は見渡す限り、田んぼと畑が広がっていました。子供の頃の私は、オタマジャクシをとったり、セミを捕まえに行ったり、水路でザリガニをとったりと、自然の中で遊んで育ったのです。この間、ご近所の方とも昔話に興じたのですけれど、パッと外を見るとタヌキがいたり、その昔は自然が隣り合わせの環境だったんですね。私が獣医師を目指したのは、その環境に育ったことが一番のきっかけであり、至極単純な言い方をすると、生き物が好きという理由だけでこの道を志したということになるんでしょうね。
その動物にとって一番いい方向は何か、ということを優先して考えていきます。その中で、過剰診療はもちろんおこなわず、余計なお薬を処方しないということ含めて、自分の良心に恥じないようにと心がけています。
診療においては、問診が最も重要です。まず飼い主さんのお話を伺い、その子の状態をみれば、おおよその方向性はわかってきます。検査はそれを踏まえてのものになってきますね。数ヶ月しかもたないであろう命に、多くの検査は必要ないものでしょう。もちろん、それが良い結果につながるのであれば、飼い主さんにご納得いただいて検査を勧める場合もあります。その検査が辛いものであっても、それが確定診断につながり、より良い治療になるのであれば必要なものになってきます。大切なのは、その苦痛を越えた先に、より良い未来が得られること。その観点を忘れず、診療に向き合っていきたいと考えています。
どの分野もくまなく診ているつもりでおりますが、皮膚科の疾患を診る機会が比較的多いと感じています。
当院では、アトピーやアレルギー等の疾患に対し、減感作療法を実施しています。減感作療法とは、アレルゲンを特定し、そのアレルゲンを少量ずつ毎日入れることによって体を慣らしていくもの。以前は注射薬しかなく、毎月通っていただく必要がありましたが、いまは舌下薬によって事が足りるようになりましたので、それを毎日お家で投与していただく形をとっています。減感作療法は世界的にはスタンダードな治療ですが、日本においてはまだまだ普及しているとは言えない状況ですね。
皮膚疾患に対する療法としては、メディカルシャンプーも提供しています。皮膚に問題のある子は、薬用シャンプーを中心に肌に合うものをセレクトすることで、皮膚が清潔な状態となり、皮膚疾患が改善に向かうことも多いのです。メディカルシャンプーは、もともとはシニアの動物たちに向けて始めたものでした。といいますのも、10歳以上の子は、リスクを考慮してサロンなどで断られてしまうケースが多かったからなんですね。洗えないと皮膚病になるリスクが出てきますし、それを気に病んでいる方が大勢いらっしゃったことから、シャンプーを提供することになったのです。
今後、ペットの高齢化が進むことにより、様々なニーズが出てくることが考えられます。そのニーズに柔軟に対応できる病院でありたいですね。
シニアの動物たちが多くなってくるのと並行するように、循環器疾患や猫の腎臓病が増えているように感じられます。こうした疾患については、治療も大切ですが、何より普段の食事に気を使うことが重要です。食べ物は、健康の基本だと思うのです。人間でも、塩分の高いものばかりを摂っていたら、5年後、10年後に響いてきますよね。動物たちにとっても、同じことが言えるのです。
当院は、比較的食事制限に厳しいほうかもしれません。おやつをあげて、喜ぶペット達を見るのが飼い主さんの楽しみとなることはわかります。しかし、それが5年先の病気につながってしまっては元も子もありません。健康で長生きしてくれることが一番なわけですから、そこのところを飼い主さんにも考えていただきたいですね。
苦言を申すようで恐縮なのですが、犬も猫も人ではない、別の生き物という認識を持っていただければと思います。我が子と同じと考えていただくのはありがたいことなのですけれど、犬にとって必要なものとそうではないもの、猫にとって良いことと、してはいけないことがあるのです。例えば、フローリングの床にしてもそうです。ツルツル滑ってしまう床は、犬や猫は苦手ですし、それが元で関節炎や脱臼を起こしてしまうケースも散見されます。口移しで食べ物を与えるのも控えていただきたいですね。人獣共通の感染症の問題もありますし、人にとっても、犬や猫にとっても好ましいことではありません。違う生き物ということを理解していただくことが、健康のための予防をより深めていただくことにもつながってきます。家族であるペット達といつまでも楽しく過ごせるよう、正しい知識を持って向き合っていただけたらなと思います。
※上記記事は2019年4月に取材したものです。
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